2016年 冬糀対談 お客様/「Otto e Sette Oita (オット・エ・セッテ 大分)」シェフ 梯 哲哉さん

「Otto e Sette Oita(オット・エ・セッテ 大分)」シェフ 梯哲哉さん 浅利妙峰(あさり・みょうほう)

梯 哲哉(かけはし・てつや)
「Otto e Sette Oita」シェフ。
(オット・エ・セッテ 大分)
1972年、福岡県糸島市生まれ。23歳でイタリア料理の道に入る。2002年から湯布院「山荘無量塔アルテジオ」の料理長に、2008年からは大分自動車道「別府湾サービスエリア」の総料理長を兼務。2010年に独立、別府市に「リストランテフィオーレ」、大分市に「バール ポンテ」を開業。2014年10月、別府市鉄輪「柳屋」内のレストランをプロデュース。2015年10月からは同レストラン「オット・エ・セッテ大分」のシェフとして、専用の地獄釜のある厨房で腕をふるっている。

浅利妙峰(あさり・みょうほう)
「糀屋本店」女将
1952年、大分県佐伯市生まれ。元禄2年(1689年)に創業した『糀屋本店』の長女として生まれ、2女3男を育てた後、2007年から”こうじ屋ウーマン”を名乗り、糀文化の普及と伝承のために国内外を奔走。塩糀を現代に甦らせた糀ブームの火付け役。

 

こうじ屋ウーマン浅利妙峰が、糀を通じて素敵なご縁をいただいた方とおいしいお話で盛り上がる対談シリーズ。第4回は、大分県の豊かな食材と鉄輪に江戸時代から伝わる温泉の噴気を利用した地獄釜を活用“今ここでしか味わえない”地獄蒸しイタリアンに仕立てた「Otto e Sette Oita」シェフ梯哲哉さん。少年のような探究心でイタリアンと糀のコラボレーションにも挑戦、未来への夢が大きく膨らむひとときとなりました。

浅利妙峰(以下、妙峰):最初にお会いしたのは、いつでしたっけ?

オット・エ・セッテオーナーシェフ 梯哲哉(以下、梯):浅利さんの糀料理教室がきっかけでした。

妙峰:そうでしたね、糀に興味を持たれているということで講座に来てくださって。賑やかな受講生のおばちゃんたちと一緒にね。で、実はすごいシェフらしいと分かるまでは、「あんた、ちょっとこれ切って」とか言われていましたね。黙ってニコニコしながらした仕事をされるんですよ。

梯:はははは…なつかしいですね。

妙峰:シェフの料理は、温泉から噴出する蒸気を利用した、まさに世界でたったひとつの地獄蒸しイタリアンですが、自然が相手だから苦労も多いでしょう?

梯:はい。でも、2年経ってコンロの調整もだいぶ上手になりました。最初は、あれもこれもしなくちゃと思っていましたが、最近は、途中まで蒸すとか、途中から蒸すとかかなり解釈を変えてやっている感じですね。

妙峰:石の上にも3年と言いますものね。努力の賜物!世界で一つの地獄蒸しイタリアンになっていますね。

梯:いやぁ、まだまだ完成していないです。今日も、温泉水でパスタをゆでるときに、蒸気はそうでもないんですが、ゆであがりが違って。麺にいつもの元気がないんです。

妙峰:自然の恵みだから天候にも左右されますね。モチロン、腕がないとできませんが、シェフは自然とお客様を結ぶ通訳みたいなものですよね。地獄蒸しと糀の組み合わせはいかがですか?

梯:ボクは、塩糀で漬けておいた魚を、間合いをうまく取りながら蒸すのが一番おいしい気がします。野菜ではジャガイモ。塩糀をまぶして蒸すと、締まるというか細やかな感じに上がります。椎茸も、塩糀を使って蒸してあげると焼かなくてもおいしい。あと、トマトに少し塩糀を入れると、フレッシュでもソースにしても2倍ぐらい旨味が増します。オリーブオイルとも相性がいいですね。

妙峰:蒸すというのがいいんでしょうね。煮たり茹でたりすると旨味も逃げてしまうけど、蒸すと中まで火が通っておいしさは逃げないし、香りが全然違う。

梯:牛などの内臓は、普通だと5~6回湯こぼしを繰り返しますが、キスケ糀パワー塩を混ぜたら1回で終わったので、自分でもびっくりしました。臭みが抜けて旨味と風味はちゃんと残っている。そのままステーキで食べられる感じになったことは驚きでした。

妙峰:シェフは食材も極力大分産を使っていますが、料理人の目から見た大分はいかがですか。

梯:大分は海のものも山のものも食材が豊富で、何でもあるんですが、極上や特上といわれる品質のものが県全体に少ない。東京のシェフが来ると、必ずいいものを求めてくるんです。だから、イノシシだったら丹波の方がうまいなーとかなるんですよね。

妙峰:料理の腕は負けないけど、素材という意味では追い付いていないということでしょうか。

梯:高級材料がいいというわけではないんですよね。大分にはおいしい関サバ・関アジがありますが、あれなんかいいと思うんです。三重県だったら、黒アワビ、イセエビ、松坂牛とか。大分は、まだそこまではいっていないけど、可能性は高いと思います。

妙峰:自分たちの食材をおいしく食べてもらうという意識では、佐伯もそうですが、新鮮な魚だから切って刺身か寿司にすればいいと思っているようなところもある。

梯:もとがおいしいんですよ。ボクは大分の材料はすごくいいと思っています。大分には温泉があって、山のものがあって、海がよくて。あとは、やっぱり郷土料理の多さですね。イタリアンにアレンジして組み合わせを色々試してみたいと思っています。

妙峰:まさに温故知新ですね。オット・エ・セッテの名前の由来のように、大分は幕末まで、小藩分立制度により8藩と7領という15の領土で構成されていたので、それぞれの地域に独特の文化と名物料理がありますよね。

梯:それこそ、イタリアンではよくパスタとか出しますが、デザートに大分の郷土料理の「やせうま」(註1)を今の時代に合ったような形で提供できたらと思ってやっています。

妙峰:おぉー!いいですね。甘さを甘糀でつけると、糀ときな粉のたんぱく質で旨味が出るので、お砂糖なしでも確実に甘く感じていただけると思います。

梯:そうか、甘糀を使うと食べた感じが滑らかになっていいかもしれませんね。さっそく使ってみます。ボクは、イカスミに塩糀を混ぜて、真っ黒になった中に魚を漬け込んでいます。

妙峰:わぁー、それもおいしそう。イカスミも魚もたんぱく質だから、糀が旨味を引っ張り出し、旨味が膨らんでいくからいいですよね。糀は100種類以上のたんぱく質分解酵素を持っているから。でも、化学調味料は1種類なのでワンパターンの味にしかならない。

梯:糀って使いこなせればおもしろいですよね。ボクは、県外や外国から温泉プラス食を求めて「大分に食べに行こうよ」となるといいなと思っています。

妙峰:世界の方が大分に来て地獄蒸しイタリアンを食べて、うなる。可能性としてはありますよね。大地の力をもらった地獄蒸しイタリアンというのはどこにもないし、普通の店が蒸してイタリア料理を作ったからといって、この味にはならない。お客様の反応はいかがですか?

梯:味がいいとか材料の味がしっかりするとか言ってくださるので、うちとしては頑張らないといけないと思っています。最近、雑誌で見たと言われておみえになる方も多く、責任もあるけどうれしいです。

「梯さんの強味は、塩糀も甘糀も作ってみたうえで、糀をオールラウンドプレーヤーと認めて料理するところ。」こうじ屋ウーマン

妙峰:梯さんの強味は、塩糀も甘糀も味噌も実際に作って、料理も食べてみたうえで、糀はオールラウンドプレーヤーだと本当に分かってくださっていることだと思うんです。

梯:以前は、イタリアンだから和の材料は使わない。塩もオリーブオイルもイタリアの一番いいものを使い、ゴマ油を使ってみようという懐の深さは持ってなかったので、糀を使うことも頭にありませんでしたね。

妙峰:でも、おもしろいでしょ、ちょっと遊ぶと。

「塩糀はイタリアンと相性が良いのですごく使いやすい。 振り塩のつもりで海外のシェフにもお勧めしたいほどです。」梯

梯:はい。塩糀というのはイタリアンではすごく使いやすいと思います。だから、これを使ったら和っぽくなるという意識じゃなくて、もっと振り塩くらいのつもりで海外のシェフにも使ってもらいたいです。

妙峰:イタリアンだったら和の糀は使えないというような心のくくりを少しずつ紐解いて、ちょっと使ってもらいながら、大きく広く深く伝えていきたいですよね。東京オリンピックもあることだし、大分から世界に向けて、お互いにしっかり発信していきましょう。

梯:よろしくお願いします。

 

Otto e Sette Oita
(オット・エ・セッテ 大分)Otto e Sette Oita(オット・エ・セッテ 大分)

 

鉄輪に地獄蒸し料理があるのをご存知の方は沢山おられるでしょうが、地獄蒸しイタリアンをご存知ですか?「地獄蒸しでイタリア料理!?聞いたことない」という返事が戻ってきそうです。地球のエネルギーをいただいて、湧き出る湯気で料理するイタリアンは絶品です!工夫に工夫を重ね、梯シェフの技と人柄が醸し出すマリアージュ。一度食べたら病みつきになります。私もその一人です。あなたも是非お仲間に加わってください。

◎営業時間 ・Lunch Time 11:30~15:00(Order Stop 14:00)
・Dinner Time 18:00~22:00(Order Stop 21:00)
◎ 定休日 火曜日
◎ 所在地 大分県別府市鉄輪井田2組
0977-66-4411
http://www.ottoesetteoita.com