2016年 春糀対談 お客様/「the bridge(ザ ブリッジ)」料理長 平田修治さん

平田修治(ひらた・しゅうじ)
「the bridge(ザ ブリッジ)」料理長
1980年、大分県豊後大野市生まれ。田北調理師専門学校卒業後、大分・別府市内の一流ホテル等に勤務。29歳でレンブラントホテル大分(旧・大分東洋ホテル)へ。日本料理店の料理長を経て、2014年4月にthe bridgeに移籍。田北調理師専門学校日本料理講師。

 

浅利妙峰(あさり・みょうほう)
「糀屋本店」女将
1952年、大分県佐伯市生まれ。元禄2年(1689年)に創業した『糀屋本店』の長女として生まれ、2女3男を育てた後、2007年から”こうじ屋ウーマン”を名乗り、糀文化の普及と伝承のために国内外を奔走。塩糀を現代に甦らせた糀ブームの火付け役。

 

糀をとおして素敵なご縁をいただいた方とおいしいお話で盛り上がる対談シリーズ。 第一回目のお客様は、ふるさと大分でおいしい料理を作り、“あっ”と喜ばせてくれる 「the bridge」の料理長平田修治さん。糀の魅力や料理への活かし方から 人としての生き方まで、話が尽きることがありません。

浅利妙峰(以下、妙峰):最初の出会いは、確かホテルの料理長をしていた5年前でしたね。 当時もいいシェフだったけど、ここに移ってますます表情がよくなった。

the bridge 平田修治料理長(以下、平田):ありがとうございます。ホテルではお客さまとの距離が遠くて、このままでいいのかなとずっと思っていたときに、初めてここに来る機会があって。外観は倉庫で手を入れていないんですが、中に入ったら新しい。ここにボクが料理で入って、ニセモノではなくて、伝統をしっかり守ったものを現代にどう表現していけるか挑戦してみたかったんです。

妙峰:そんな平田料理長の糀への思いを聞かせてください。

平田:ボクは料理人ですから塩はずっと使っていましたが、ある日、塩というものは味つけをするものではなくて、素材の味を引き立たせるための調味料だと気づきました。素材のよさを引き立ててあげることを意識して料理をしていた時に「塩糀」という今まで使ったことのない調味料と出合って使ってみたら、やさしい何かがスパイスのように加わって、それがすごく楽しくて。いろいろ作っているうちに、今度は、食塩や上白糖を使わずに懐石料理ができたらと思うようになりました。

妙峰:平田さんは、日本料理だけでなく、イタリアンもフレンチもご存知なので、食材を生かすという大きな輪の中で、糀を使えるのはうらやましいです。

「古くてもいいものは残したい、伝えたい それを次の世代に伝えるのが 自分の役目かなと考えています」

平田:この建物もそうですが、古くてもいいものは残したい。それを次の世代に伝えるのが自分の役目かなと考えています。今、調理学校の講師をしていますが、多くの学生が「おせち」や「七草」を知らないんです。このままではどんどん良いものが消えていくのではないかと不安に駆られます。ですから、昔からの糀や黒豆の炊き方などを自分が料理で表現し、作り方を伝えて、それをさらに次の世代に伝えてもらえたら嬉しいとの思いで取り組んでいます。

妙峰:その点では、私たちの世代が伝えていく努力を怠っていたように思います。糀があって当たり前の世界が変わろうとしている。なくなってしまってからでは遅い。「ああ、そういえば」という記憶の糸を繋げて思い出させるのと、ゼロから積みあげるのとでは大きく違いますね。

平田:ボクの中では「やさしい」という表現なんですけど、塩より塩糀の方が表現の幅が広いんです。まず愛情をかけて塩糀を作って、素材にも愛情をしっかり注いであげると、今まで以上の味や丸さを引き出してくれる。本当にすごいなと思います。

「塩と素材の1対1の対決ではなく、糀が入ることによって、三者がお互いにそれぞれのよさを醸し出して おいしさをつくりあげていく」

妙峰:塩と素材の1対1の対決で旨味を出すところから、糀が中に入って三者でお互いにそれぞれのよさを醸し出しておいしさをつくりあげていく。これってチームワークなんですよね。やはり糀は生きている。

平田:たとえば、魚は命をいただく前にしめますが、しめても魚が死んだわけではなく細胞は死なないんですね。細胞が生きているうちに塩糀でマリネして、2~3時間置いて切り身にして食べると、新しい味というか、塩では表現できない何かがあるんです。

妙峰:その何かは、言葉でいくら説明してもわからない。でも、食べたら「これかぁ!」と腑に落ちる。「恋に落ちる」というのと一緒かも。

平田:食材って使い方によってどうにでもおいしくなってくれるし、身体にもやさしい。やっていることはとてもシンプルで、ただ気持ちだけ添えてあげだけでいい。

妙峰:そうそう。この人のためにと作られて、調理されて、いただくということが、今度は、作り手と食べ手のコミュニケーションにつながる。心を伝えるという意味では、温かいものは温かく・冷たいものは冷たく楽しんでいただく心は、どこの国の料理にも通じるものだと思う。

平田:特に日本料理では大切ですよね。料理人を目指す今の若い子たちは、料理がバリバリできるようになりたいと入ってきますが、料理がただ上手にできるのではなくて、何より心構えが大事。どれだけ向き合って、愛情をこめて、たくさんの人へぶれることなく伝えられるかにかかっている。まず、あいさつができる人間になってから料理を作りなさいと指導しています。

妙峰:すごい、情操教育ですね。まず、心や身体であったり、相手の痛みや動物の命をいただくといった痛みを知ったうえで料理する。このおいしさを伝えたいという気持ちがあるとないとでは、出来上がった料理も全然違う。

平田:今日もランチの野菜を焼く温度が高かったので、スタッフに「野菜が泣いているよ」と伝えました。命が悲鳴を上げるような扱いをしてはダメ。糀も生きている調味料なので、やさしさを加えてあげると変わります。

妙峰:それを言って、わかるスタッフというのはありがたいよね。

平田:スタッフとは、とにかくよく話すようにしています。最初に料理長になったときに対話不足で人が離れていったんです。自分も若かったし、会話ができなくて。そんな職場でおいしいものを作れるわけがない。花に水をあげるのも、人を愛するのも、料理するのもその人次第だと思うので、すごく反省したんです。話すことで想いを伝えあう、今、そんなスタッフが育ってきてありがたいです。

妙峰:素晴らしい!チーム力が備わって、可能性がどんどん広がっていく。

平田:味は舌で感じるだけではなく、頭や心でも感じるもの、身体全体でも感じるもの。だから、自分がいかに自然体で季節を感じているかが肝心です。ボクは田舎で育ったので、不自然なことはストレスなんです。たとえば、3ヵ月先のメニューを今教えてと言われても、その時の天気や海・山の状態はその時にしかわからない。だから、メニューもその日に食材を見て、何を作ろうかと考えるのが仕事の喜びです。

妙峰:食材の声に応えるという挑戦。そんなクリエイトな部分が面白く、楽しめるところ。料理人は、職人とはいえ芸術家だと信じます。

平田:だから、浅利さんが「こんなものがあるよ」と持ってきてくださったものを、どうしようかと考えるのが大好きなんです。糀の調味料は初めてだったので、本当にいいキッカケを作ってくださいました。

妙峰:平田さんの腕にかかるとレシピがバッと膨らんで次々に美味しいものになってゆくので、食べる方も嬉しいよね。糀を使ったお料理の評判はどうですか。

平田:とてもいいです。特に、糀と刺身の相性がすばらしいですね。

妙峰:お料理はモチロンだけど、ここにいると、街中なのに田舎にいるようなやさしい気持ちになれる。ふるさとに「ただいまー」と帰ってくる感じですね。

平田:ここにいらっしゃったときは、自分のふるさとを思いながら楽しんでいただけると嬉しいです。

妙峰:私は、講演などの最初に、必ず皆さんと一緒に「ふるさと」を歌うんですよ。温故知新の想いは同じですね。ナント、今日は「春糀」のために若草色のお吸い物を作ってくださったんですよね。

平田:はい。ご家庭で簡単にできますので、ぜひ作ってみてください。鯛と塩糀の扱い方をていねいにするとおいしくなります。だしも、糀屋本店さんの旨味シリーズを使えば時短できますよ。

妙峰:これからも、ビックリワクワクさせてください。今日はありがとうございました。

the bridge(ブリッジ)the bridge(ブリッジ)

 

まるで森の中にいるような心地よさ。一度ここを訪 れると、きっと誰もが恋に落ちてしまうのではない でしょうか。室内のしつらえ、音楽、料理、サービ ス、時間の流れ方…昔ながらのベースは大切に持 っておきながら、新しいものを足していく。まさに温 故知新ですね。そんなオーナーの想いとスタッフの 熱さがひとつになって素晴らしいチームワークを 生み出しています。その雰囲気から生み出される お料理を味わうために、何度も足を運びたくなる 空間です。

◎営業時間 ・Lunch 11:00-14:00
・Dinner 17:30-24:00
◎ 定休日 なし
◎ 所在地 大分県大分市中央町3-3-19
097-532-6656