2017年 春糀対談 お客様/「NARUMI」店主 鳴海 定臣さん

「NARUMI」店主 鳴海定臣(なるみ・さだおみ)浅利妙峰(あさり・みょうほう)
鳴海定臣(なるみ・さだおみ)
1983年、大分県佐伯市蒲江に生まれる。18歳で佐伯市内の寿司店で働き始め料理の道に入る。2005年から2年半大阪の寿司店で修業後、ふるさとに戻り、実家の民宿、市内の寿司店を経て、2014年にカナダバンクーバーに渡り、現地の寿司店で日本とは違う価値観を体験する。2015年3月15日、32歳で佐伯市に自身の店「NARUMI」をオープン。尽きない探求心とあふれる感性と熱いふるさと愛で、新鮮な魚を最高の熟成具合にして提供し続けている。
浅利妙峰(あさり・みょうほう)
「糀屋本店」女将
1952年、大分県佐伯市生まれ。元禄2年(1689年)に創業した『糀屋本店』の長女として生まれ、2女3男を育てた後、2007年から”こうじ屋ウーマン”を名乗り、糀文化の普及と伝承のために国内外を奔走。塩糀を現代に甦らせた糀ブームの火付け役。

 

こうじ屋ウーマン浅利妙峰が、糀を通じて素敵なご縁をいただいた方とおいしいお話で盛り上がる対談シリーズ。第5回は、妙峰のイチオシ。熟成寿司で話題のなかなか予約の取れない佐伯市「NARUMI」の若き店主、鳴海定臣さん。年齢は違っても、チャレンジ精神旺盛で常に世界に目が向いている2人の対談は、どこまでも熱く盛り上がりました。

浅利妙峰(以下、妙峰):鳴海くんと話をするようになったのは、「NARUMI」の開店直前。腕のいい職人がいると聞きました。

鳴海:妙峰さんには習うことばかりで。表現が難しいですけど、簡単に言うと尊敬しています。

妙峰:年齢は違っても、より良いものを求めるという所に私たちの共通点がある気がします。一国一城の主になっても一生懸命勉強する姿勢には触発されるし、同志という感じかな。お店では、糀はどういう風に使っていますか?

鳴海:教えていただいた「甘糀リンゴのガリ」ですね。

妙峰:おーっ。甘糀はどう?

鳴海:いいですね。ただ、柔らかくなりやすいので、漬け込み時間はちょっと短めにしています。でも、糀はやっぱり刺身が定番です。特にキスケ塩ペッパーの評判が良くて、醤油はいらないという人も多いです。大分の料理屋さんたちもうちに来て、この食べ方いいなと言います。

妙峰:北海道の羅臼の人たちは、醤油じゃなくて塩こしょうでサンマを食べるらしいから、合うんやね。

鳴海:お米を炊くときにもキスケを入れています。甘みが増すので。その後、酢の方にキスケ糀パワーを足すんです。

妙峰:酢に糀を加えるのはなぜ?

鳴海:若干甘くなるんですよ。シャリに深みを出すのに、かすかな甘みが必要なんです。シャリというのは甘みと酸味と塩気のバランスが大事で、砂糖だと直接的すぎるんです。ほんのひとつまみでも違うんですよ。教えていただいたように、60℃を超えない低い温度でシャリを作ります。酵素が活きているから。

妙峰:糀にやさしくなったね。

鳴海:難しかったのは、糀を入れれば入れるほどおいしくなるわけではないということ。入れすぎるとご飯が苦いんですよ。だめだ、このシャリは使えないって。

妙峰:少なくても相当効くからね。

鳴海:人間の味覚って、うまみ成分を感じ取れる最大のリミットが決まっているんですよね。それを過ぎるとみんな苦みに変わってくるので、ひとつまみ位の量で調節していくのが一番いい。

妙峰:フレッシュな魚と熟成させた魚、どちらも食べておいしいけど、違いを述べよ、となるとよくわからない。

鳴海:そうなんですよ。だから料理を出すときは、これは今日獲れたアジで、これは一週間前のアジですと味の違いを説明して感想を聞くんですが、皆さん「全然違う」と言います。

妙峰:それはうれしいね。でも、何もしないで10日寝かせたらおいしくなる?

鳴海:いや、何も手を加えず10日経ったら腐ってますよ。

妙峰:それが、テクニックよね。ちなみに、糀は発酵しているものでカラダにいい酵素がたくさん含まれているけど、熟成した寿司はどうですか。

鳴海:そこは、ボクも研究中なんです。いろいろ調べると、寝かした魚はなぜおいしくなるのかという理由はあるけど、体にいいかどうかというのはないんですよね。

妙峰:おいしいものはカラダにいい。今は添加物を加えたおいしさになっているけど、余分なものが入らずにおいしいものであれば、それはカラダにいい。だから、熟成も多分。

鳴海:添加物は入れてないですから、そういう意味では確かにカラダにいい。ボクは生まれたときから化学調味料を知らずに育って、料理人になって初めて知りました。

妙峰:化学調味料の味を知らないで育ったということは、親に感謝しないといけんよ。化学調味料を使わないおいしさと、使った味の違いが分かるのはとても大事。使わないおいしさの中で育つと、使った味においしさを感じにくい。カラダに優しいのがどちらかというのも、自ずとわかるから幸せだね。

鳴海:なるほど。哲学的ですね。

妙峰:先日、フランスの料理学校の先生が「料理人の感性や腕はでき上がったものの20%、残りの80%は生産者の努力。だから、生産者の努力や味や香りを伝えるのが自分たちの仕事だ」と言ってた。

鳴海:生産者がいないとボクらは仕事ができないです。

妙峰:いくら腕があっても材料がないとね。

鳴海:生産者が心をこめて作ってくれたものが本当においしくて、それがきちんと適正な値段で売れて、みんなが良くならないとダメだと考えます。

妙峰:商いっていうのはね、飽きないようにするから商い。

鳴海:へぇー。

妙峰:私はこの言葉が好き。商いしたら飽きないようにというのは、また行こうか、またあの方に買ってもらおうというように、長く付き合えるということ。長い付き合いが保てる距離とか、値段とか、おいしさもそう。

鳴海:いいですね。安くてうまいものを出すと、確かにお客さんは喜ぶけど、自分たちは苦しくて、漁師さんにも苦しい思いをさせると気付いたときに、このままじゃいけないと自分で店を始めて意識が変わりました。

妙峰:そうだね。商いは飽きないようにというのもあるけど、回していくというのもある。貰ったものは、おすそ分けして回していく。お金が無くても、そんな風に回っていた時代が一番満たされていたのかな。お金では買えない真心も一緒に付いてくるっていう事を今はちょっと忘れている。

鳴海:結局、そこにつながるんでしょうね。

妙峰:昔は、女の人は手の温度が高いから寿司職人になれないって言ってたよね。

鳴海:ボクはそこに疑問を持ったんですよ。例えば魚を触り過ぎると魚が腐ると言うじゃないですか。それ本当かな、寿司はそんなに早く腐るのかなって。

妙峰:触ったら色が変わるとか、何かあるんだろうけど。

鳴海:ちなんかネタケースがないのに、ずっと出していても絶対腐らないです。しかも1週間前の魚を。普通じゃ考えられない環境だと思うんです。でも、それを皆さんおいしいと言ってくださる。

妙峰:確かにおいしいもんね。

鳴海:それまでの魚の扱い方が一番大事なので、魚をおろすところから神経を使います。にとどまらず世界に目を向けてますからね。佐伯の中で、どうこうじゃなくて、外にしっかり目を向けている。

妙峰:深いね。私はお寿司が大好きだから、感謝しています。鳴海くんは、これからどうなりたいと思いますか。

「食に携わるみんなの技術が向上して、佐伯が世界で一番おいしい寿司屋の集まる町だと言われるのが夢ですね。」鳴海

鳴海:寿司業界に、良い意味での刺激を与えられたらいいなと思っています。食に携わるみんなの技術が向上して、佐伯が世界で一番おいしい寿司屋の集まる町だと言われるのが夢ですね。国内外で、佐伯の寿司を食べたことがあるかという会話が当たり前に出てくるような。

「鳴海くんも糀屋と一緒で、佐伯だけにとどまらず
世界に目を向けてますからね。」こうじ屋ウーマン

妙峰:NARUMI、行ったことないの?」って、ニューヨーカーが言ってる感じね。鳴海くんも糀屋と一緒で、佐伯だけにとどまらず世界に目を向けてますからね。佐伯の中で、どうこうじゃなくて、外にしっかり目を向けている。

鳴海:それこそ世界一の美食の町っていわれているバスク地方のように、良い食材が手に入る佐伯の素晴らしさをどうやって外に発信していくかが、自分たちに課せられた使命だと思うんですね。

妙峰:たとえば酒には辛口も甘口も生もあって、色んな中から私はこれが好きというのと同じ様に、佐伯のお寿司も、私は熟成寿司が好き、私は獲れたてが好きというように、選択の自由がもっともっと広がっていったら楽しくなるね。一緒に頑張りましょう。

鳴海:はい。これからもよろしくお願いします。

NARUMI
NARUMI

 

世界のいろんな場所で魚介類をいただいたけれど、ふるさと佐伯の魚のおいしさは世界一かも知れないと感じます。素晴らしい素材を、新鮮なままいただくことも贅沢だけれど一手間、二手間、真心こめて熟成させたNARUMIのお寿司はここでしか食べられないとってもスペシャルなお料理。遠方から来て下さるみなさんには必ずNARUMIをご推薦。美味しいお寿司とお酒で至福の佐伯体験ができるお店です。

◎営業時間 18:00~22:00
◎ 定休日 火曜日
◎ 所在地 大分県佐伯市中村東町5-7
→2020年に大分市へ移転OPENされました。
詳しくは下記HPよりご覧ください。
http://sadaominarumi.com/