salone del gusto/Terra madre 開会式でのスピーチ

去る10月23日にイタリアで開かれたsalone del gusto/Terra madre 開会式にて糀屋本店の浅利定栄がゲストスピーカーとして壇上に立たせていただきました。世界各国からスローフードに携わる著名な方々が数千人と集まる中で、身に余る光栄という言葉通り、大役をお預かりました。

なんとスピーチの順番は、アメリカ大統領オバマ夫人の後だったそうです!それを後から知らされ、スタッフ皆おどろきのあまり口があんぐり開いたままになりました。

スピーチ後にはスローフードの創始者でいらっしゃるカルロ・ペトリーニ氏より「Good luck, koji power !」とお声かけいただいたようです。 糀の素晴しさが世界中の皆様にしっていただけるよう少しでもお手伝いしていこうという気持ちを新たにした一日でした。スピーチの模様と会場の様子をシェアします!

 

下記から音声でもお楽しみいただけます。

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Terra madreにお集りの皆さん、こんばんは。

日本の大分より参りました、浅利定栄です。

私の家は320年間代々、「糀・麹(こうじ)」を生産をしてきました。糀・麹は私たち日本人が伝統的に食してきた味噌や醤油、日本酒などの発酵食品に欠かせない和食の源とも言うべきものです。

糀・麹はこの麹菌からつくられ、食べ物の発酵を促す大事な役割を担います。
発酵の過程で、糀・麹の力で私たちにとって有益な栄養素が作り出され、多様で複雑な深い味わいを生み出すことが出来るのです。日本は長寿の国として有名ですが、その理由のひとつは糀・麹のおかげだと言う人もいます。

味噌は、糀・麹から作られる食べ物の中でも、日本の食の伝統と多様性を象徴しています。味噌はいわば日本人の食の知恵の結晶であり、それぞれの地域独特の文化や気候を反映し、全国で何百、何千種類もの多様な味や色の味噌が作られています。

味噌はたった3つの主原料で造られます。豆、塩、そしてしっかりと作られた糀・麹だけです。このシンプルさが「本物の味噌」、英語でいうと「Genuine Miso」と言うのでしょうか、力のある味噌の証であり、しっかりと作られた糀・麹には300種類を越える酵素
が含まれています。

この本物の味噌は長い歴史の中で、私たちの体を守る力が証明されており、近年の研究では、科学的にも味噌の免疫向上の効果はもちろん、食品添加物や環境汚染による体内に溜まってしまった毒素の排出を促すことも証明されています。

歴史的にも日本の長崎の原爆で被爆した方々が、味噌を積極的に摂取したことで被爆症状が抑えられたという、人間の体に対する天然のバリアのような効果も知られており、私たち日本人がこういった大変な状況を乗り越えてこれたのには、このような食の力のおかげだったのではないかと思うのです。

ご存知の通り、日本ではいまもなお2011年から続く、福島第一原発の問題を抱えています。甲状腺癌など健康問題の増加の懸念もあり、原発から海に流れている汚染水の問題はまだ解決策が見つかっていません。これが私たちの生態系にどう影響するのか、生物多様
性の保全というスローフードの重要な課題においてもどの程度のリスクになるのか私たちにはまだ正確にはわかりません。

そしていま私たちが直面している危険は放射能だけではなく、食品添加物、残留農薬など、見渡せば沢山の食のリスクに囲まれています。 これは日本だけの問題ではなく、世界で力を合わせ乗り越えていかねばならない難しい局面であり、私たち一人一人がいま行動を起こして、本物の食の力を取り戻す必要があると思うのです。

私はこうじを生業とする者としてこうした「本物の食、Genuine Food」が持つ、人を癒す力を信じています。食べることは生きることそのものであり、古くから医食同源と言われています。

私にとって本物の食べ物とは、生き生きとした素材で余計なものを加えず、多様性と伝統を尊重し、生産者が愛情と魂を込め、食べる人の心と体の健康を願ってつくられた食べ物なのです。それこそが生きる力の源となるのではないでしょうか。

これは意外とシンプルなことで、世界中のどこでも、どんな環境でも私たちの努力次第で、この食べ物の力を引き出すことが出来るのではないでしょうか。私は、本物の味噌を、日本とそして特に福島の方々のことを祈りながら、ここイタリアで、これから世界の皆
さんと一緒につくって行きたいと思っております。これは私たちにとって特別に意味のある挑戦なのです。

この本物の食べ物の力に感謝しながら、皆さんと一緒にこの世界の大きな課題を乗り越えていけますように、そして私たちの健康と平和がいつまでも続きますように、祈りを込めてこれからも糀・麹や味噌をつくって参ります。

今日は本当にありがとうございました。